若者に寄せた1本が客単価を壊す ── 採用SNSの設計
採用アカウントを見ているのは、採用候補者だけではありません。いちばん多く見ているのは既存顧客です。応募が増えても予約単価が落ちるなら、その施策は失敗です。
- SNSはやりたいが、店やブランドの雰囲気を崩したくない
- 他社の当たっている動画を真似すると、自社では明らかに浮く
- 何から手をつけるか順番が分からず、結局まだ何も出していない
この3つは同じ原因から来ています。「守るべき格」を言葉にしていないことです。
求職者はSNSで会社を調べている。しかも多くはフォローせず、見るだけで判断している。だから採用SNSの仕事はフォロワーを集めることではなく、調べられた瞬間に選ばれる状態をつくることだ。順番は、格を先に定義し、指標を選び直し、事故を防ぐルールを敷き、そのうえで本数を積む。逆順にやると、採れないうえにブランドが削れる。
- フォロワー数はKPIにしない。フォローされないまま見られているので、見られた量を表していない
- 見るべきは、プロフィールと直近数本で「どんな会社か」が伝わるかどうか
- 格を言語化してから作る。若者に寄せて砕けさせると、本業の客単価に跳ね返る
- 採用単価から逆算すれば、SNSへの投資は稟議に載る数字になる
高級ホテルの支配人から、こう言われたことがあります。
「採用のために、うちで流行りの動画を撮るのは無理です。お客様が見ますから」
この判断は正しいです。 格が客単価を支えている業態では、採用のために出した1本が、そのまま本業の価格の納得感に跳ね返ります。応募が10件増えて予約単価が2%落ちたら、その施策は失敗です。
ただし、結論が「やらない」になると別の損失が始まります。やらなくても求職者は見に来ます。 見に来て、何もないことを確認して帰ります。
この記事は、その間を通す順番を書きます。テクニックの話ではありません。格を1ミリも下げずに採用の数字を動かすための、順番の話です。
求職者は見ている。企業は置いていない
いま起きていることは、2つの数字で説明できます。
片方だけを見ると「SNS採用が流行っている」という話になります。両方を並べると、これは流行の話ではなく置き忘れの話だと分かります。
出典5(二次情報)。企業側は「3割弱」を28%として描いています。
求職者が見に来ているのに、企業の7割はそこに何も置いていない。 そして置いていない理由の多くが、冒頭の支配人の言葉、つまり「崩したくない」です。
しかも採用の現場は待ってくれない。有効求人倍率は1.18倍(2026年4月)で、人手不足を理由にした倒産は2025年に427件と統計開始以降で最多になった。とくに宿泊業の人手不足割合は73.4%で全業種の1位だ。
「SNSをやるかどうか」を検討している間に、求職者はもう来て、何も無いまま帰っている。判断すべきは着手の是非ではなく、置くものの中身だ。
いちばん大事な発見 ―― 学生は「フォローせずに見る」
ここが設計を変える。求職者の多くは、企業の公式アカウントをフォローしない。見るだけだ。Instagram は、気軽に企業を調べるための道具になっている。
この事実が意味することは1つしかない。
調べられたときに、選ばれる会社に見える状態をつくる仕事だ。
フォロワー数は「見られた量」を表していない。フォローされないまま見られているのだから、増えないのが普通だ。それを目標に置くと、担当者は増えない数字を追って疲れ、正しくやっているのに失敗していると感じる。
代わりに見るべきものはこうなる。
- 応募経路として名前が挙がった数
- 選考中の辞退率・内定辞退率
- 1人採るのにかかった金額(採用単価)
- 入社後半年・1年の定着率
- プロフィールから求人ページへの遷移率
- フォロワー数
- 投稿本数そのもの
- いいね数の合計
- 再生回数だけの合計
- 他社アカウントとのフォロワー比較
どのSNSを見られているか
求職者がふだん使っているSNSと、業界研究のために開くSNSは違う。ここを混ぜると媒体選びを間違える。
| 用途 | 上位 |
|---|---|
| ふだんの利用(Z世代) | YouTube/LINE/Instagram/X/TikTok |
| 業界研究に使う | YouTube(27.4%)/Instagram(25.5%)/TikTok・LINE(各11.3%) |
業界研究では YouTube が最も見られている。 縦型を増やす話とは別に、少し長い尺で仕事の中身が分かるものを置く価値がここにある。
ブランドを下げないための順番
ここが carasu の主張の中心だ。採用SNSは、順番を間違えると取り返しがつかない。
採用関連のSNS炎上は毎年起きている。そしてSNSでは、ネガティブな話題のほうが速く広く伝わる。格が客単価を支えている業態では、採用のために作った砕けた動画が、本業の集客と単価に跳ね返る。 高級ホテル、料飲、美容はここに該当する。
だから順番はこうなる。
- 守るべき格を言語化する(言葉・映像のトーン・出してよい場所と出さない場所)
- 来てほしい人を1人に絞って書く(全員に届けようとすると誰にも届かない)
- 指標を選び直す(前章の「見るべき指標」に置き換える)
- 事故を防ぐルールを敷く(誰が最終確認するか、何を撮らないか)
- そのうえで本数を積む
1〜4を飛ばして5から始めるのが、いちばん多い失敗です。本数だけが増えて、採れないうえにブランドが削れます。しかも削れたことは、採用ではなく本業の数字に遅れて出るため、原因が分からなくなります。
「良く見せない」という選択
採用広報で最も費用対効果が高いのは、実は都合の悪いことを書くことだ。繁忙期はきついこと、向いていない人の特徴、できないこと。 これを書くと応募は減る。減った先で、辞退率と早期離職が下がる。
採用単価は「応募数」ではなく「1人採るのにかかった金額」で測るものだから、母集団を絞って辞退が減れば、単価は下がる。応募を増やす施策と、採用単価を下げる施策は、同じではない。
続かない問題を、構造で解く
運用が止まる原因は担当者のやる気ではない。1人に企画から撮影・編集・投稿まで集めている構造が原因だ。
- 撮影しなくても出せる型を先に決める(社員の一問一答/1日の流れ/数字の紹介/設備や制度の説明)
- 素材を撮る日と、出す日を分ける(週1回まとめ撮り、平日は出すだけ)
- 最終確認をする人を1人だけ決める(合議にすると止まる)
ネタは毎回考えるものではなく、決めた型に流し込むものにする。ここを設計すると、担当者が変わっても止まらない。
AI検索にも置いておく
最後に1つ。発注担当者も、求職者も、もうAIに聞いている。 BtoBの情報収集ではAI検索の利用が約65%、業務用の商品・サービスの検討でChatGPTを使う人は58.0%という調査がある。
つまり採用の情報も「検索1位を取る」だけでは足りない。AIが引用できる形で置く必要がある。具体的には、要点を冒頭にまとめる、よくある質問を画面に出す、更新日を明示する、数字に出典を付ける。この記事がそうしているのは、そのためだ。
3か所
求職者が見るのはプロフィール・固定表示・直近数本だけ
carasu の整理
半日
守るべき格を言語化する議論の時間
同
0円
そこまでにかかる費用(制作費は次の工程から)
同
まとめ
- 求職者は見に来ている。企業の7割は何も置いていない
- 多くはフォローせず見るだけ。だからフォロワー数は指標にならない
- 見るべきは、採用単価・辞退率・定着率
- 格を先に定義してから作る。逆順にすると本業に跳ね返る
- 続かないのは構造の問題。型と分担で解く
よくある質問
採用SNSは、まず何から始めればいいですか。
フォロワー数を目標にしてはいけないのはなぜですか。
採用のために砕けた投稿をすると、ブランドが下がりませんか。
投稿が続きません。どうすれば運用が止まらなくなりますか。
- 一般職業紹介状況(厚生労働省)/労働力調査(総務省統計局) https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/114-1.html
- 人手不足倒産の件数(東京商工リサーチの集計を報道各社が引用) https://www.tsr-net.co.jp/(一次資料で件数と定義を確認のうえ使用)
- 宿泊業における人材確保・育成の実態調査(観光庁) https://www.mlit.go.jp/kankocho/
- Z世代のSNS利用実態(サイバーエージェント次世代生活研究所) https://www.cyberagent.co.jp/news/
- 就職活動におけるInstagram活用の実態調査(トガル株式会社) https://prtimes.jp/
- 日本のBtoB購買に関する意識・実態調査(HubSpot Japan) https://www.hubspot.jp/