若者に寄せた1本が客単価を壊す ── 採用SNSの設計

採用アカウントを見ているのは、採用候補者だけではありません。いちばん多く見ているのは既存顧客です。応募が増えても予約単価が落ちるなら、その施策は失敗です。

Key figure
7 求職者はSNSで会社を調べている。それでも新卒採用でSNSを活用しているのは3割弱で、残りは見に来た人に渡すものを持っていない。
出典:出典5(二次情報。公開前に一次調査で確認)
こんな状態なら、この記事です
  • SNSはやりたいが、店やブランドの雰囲気を崩したくない
  • 他社の当たっている動画を真似すると、自社では明らかに浮く
  • 何から手をつけるか順番が分からず、結局まだ何も出していない

この3つは同じ原因から来ています。「守るべき格」を言葉にしていないことです。

01
採用SNSで何を指標に置き、何を捨てるべきかが決まる
02
ブランドを下げずに採用の数字を上げる手順が手に入る
03
上司や役員に見せる稟議の骨格がそのまま作れる
結論だけ先に

求職者はSNSで会社を調べている。しかも多くはフォローせず、見るだけで判断している。だから採用SNSの仕事はフォロワーを集めることではなく、調べられた瞬間に選ばれる状態をつくることだ。順番は、格を先に定義し、指標を選び直し、事故を防ぐルールを敷き、そのうえで本数を積む。逆順にやると、採れないうえにブランドが削れる。

  • フォロワー数はKPIにしない。フォローされないまま見られているので、見られた量を表していない
  • 見るべきは、プロフィールと直近数本で「どんな会社か」が伝わるかどうか
  • 格を言語化してから作る。若者に寄せて砕けさせると、本業の客単価に跳ね返る
  • 採用単価から逆算すれば、SNSへの投資は稟議に載る数字になる

高級ホテルの支配人から、こう言われたことがあります。

「採用のために、うちで流行りの動画を撮るのは無理です。お客様が見ますから」

この判断は正しいです。 格が客単価を支えている業態では、採用のために出した1本が、そのまま本業の価格の納得感に跳ね返ります。応募が10件増えて予約単価が2%落ちたら、その施策は失敗です。

ただし、結論が「やらない」になると別の損失が始まります。やらなくても求職者は見に来ます。 見に来て、何もないことを確認して帰ります。

この記事は、その間を通す順番を書きます。テクニックの話ではありません。格を1ミリも下げずに採用の数字を動かすための、順番の話です。

求職者は見ている。企業は置いていない

いま起きていることは、2つの数字で説明できます。

求職者は見に来ているのに、企業の側に置くものがない
求職者:就職活動でSNSで情報収集している(25卒)59.6%
企業:新卒採用でSNSを活用している28%

片方だけを見ると「SNS採用が流行っている」という話になります。両方を並べると、これは流行の話ではなく置き忘れの話だと分かります。

出典5(二次情報)。企業側は「3割弱」を28%として描いています。

求職者が見に来ているのに、企業の7割はそこに何も置いていない。 そして置いていない理由の多くが、冒頭の支配人の言葉、つまり「崩したくない」です。

しかも採用の現場は待ってくれない。有効求人倍率は1.18倍(2026年4月)で、人手不足を理由にした倒産は2025年に427件と統計開始以降で最多になった。とくに宿泊業の人手不足割合は73.4%で全業種の1位だ。

要点

「SNSをやるかどうか」を検討している間に、求職者はもう来て、何も無いまま帰っている。判断すべきは着手の是非ではなく、置くものの中身だ。

いちばん大事な発見 ―― 学生は「フォローせずに見る」

ここが設計を変える。求職者の多くは、企業の公式アカウントをフォローしない。見るだけだ。Instagram は、気軽に企業を調べるための道具になっている。

この事実が意味することは1つしかない。

採用SNSは、フォロワーを増やす仕事ではない。
調べられたときに、選ばれる会社に見える状態をつくる仕事だ。

フォロワー数は「見られた量」を表していない。フォローされないまま見られているのだから、増えないのが普通だ。それを目標に置くと、担当者は増えない数字を追って疲れ、正しくやっているのに失敗していると感じる。

代わりに見るべきものはこうなる。

見るべき指標
  • 応募経路として名前が挙がった数
  • 選考中の辞退率・内定辞退率
  • 1人採るのにかかった金額(採用単価)
  • 入社後半年・1年の定着率
  • プロフィールから求人ページへの遷移率
見なくていい指標
  • フォロワー数
  • 投稿本数そのもの
  • いいね数の合計
  • 再生回数だけの合計
  • 他社アカウントとのフォロワー比較

どのSNSを見られているか

求職者がふだん使っているSNSと、業界研究のために開くSNSは違う。ここを混ぜると媒体選びを間違える。

用途 上位
ふだんの利用(Z世代) YouTube/LINE/Instagram/X/TikTok
業界研究に使う YouTube(27.4%)/Instagram(25.5%)/TikTok・LINE(各11.3%)

業界研究では YouTube が最も見られている。 縦型を増やす話とは別に、少し長い尺で仕事の中身が分かるものを置く価値がここにある。

ブランドを下げないための順番

ここが carasu の主張の中心だ。採用SNSは、順番を間違えると取り返しがつかない。

採用関連のSNS炎上は毎年起きている。そしてSNSでは、ネガティブな話題のほうが速く広く伝わる。格が客単価を支えている業態では、採用のために作った砕けた動画が、本業の集客と単価に跳ね返る。 高級ホテル、料飲、美容はここに該当する。

だから順番はこうなる。

  1. 守るべき格を言語化する(言葉・映像のトーン・出してよい場所と出さない場所)
  2. 来てほしい人を1人に絞って書く(全員に届けようとすると誰にも届かない)
  3. 指標を選び直す(前章の「見るべき指標」に置き換える)
  4. 事故を防ぐルールを敷く(誰が最終確認するか、何を撮らないか)
  5. そのうえで本数を積む
注意

1〜4を飛ばして5から始めるのが、いちばん多い失敗です。本数だけが増えて、採れないうえにブランドが削れます。しかも削れたことは、採用ではなく本業の数字に遅れて出るため、原因が分からなくなります。

「良く見せない」という選択

採用広報で最も費用対効果が高いのは、実は都合の悪いことを書くことだ。繁忙期はきついこと、向いていない人の特徴、できないこと。 これを書くと応募は減る。減った先で、辞退率と早期離職が下がる。

採用単価は「応募数」ではなく「1人採るのにかかった金額」で測るものだから、母集団を絞って辞退が減れば、単価は下がる。応募を増やす施策と、採用単価を下げる施策は、同じではない。

続かない問題を、構造で解く

運用が止まる原因は担当者のやる気ではない。1人に企画から撮影・編集・投稿まで集めている構造が原因だ。

  • 撮影しなくても出せる型を先に決める(社員の一問一答/1日の流れ/数字の紹介/設備や制度の説明)
  • 素材を撮る日と、出す日を分ける(週1回まとめ撮り、平日は出すだけ)
  • 最終確認をする人を1人だけ決める(合議にすると止まる)

ネタは毎回考えるものではなく、決めた型に流し込むものにする。ここを設計すると、担当者が変わっても止まらない。

AI検索にも置いておく

最後に1つ。発注担当者も、求職者も、もうAIに聞いている。 BtoBの情報収集ではAI検索の利用が約65%、業務用の商品・サービスの検討でChatGPTを使う人は58.0%という調査がある。

つまり採用の情報も「検索1位を取る」だけでは足りない。AIが引用できる形で置く必要がある。具体的には、要点を冒頭にまとめる、よくある質問を画面に出す、更新日を明示する、数字に出典を付ける。この記事がそうしているのは、そのためだ。

順番を守れば、最初の工程に費用はかからない

3か所

求職者が見るのはプロフィール・固定表示・直近数本だけ

carasu の整理

守るべき格を言語化する議論の時間

0

そこまでにかかる費用(制作費は次の工程から)

まとめ

  • 求職者は見に来ている。企業の7割は何も置いていない
  • 多くはフォローせず見るだけ。だからフォロワー数は指標にならない
  • 見るべきは、採用単価・辞退率・定着率
  • 格を先に定義してから作る。逆順にすると本業に跳ね返る
  • 続かないのは構造の問題。型と分担で解く

よくある質問

採用SNSは、まず何から始めればいいですか。
投稿ではなくプロフィールからです。求職者の多くはフォローせずに見るだけで判断しているため、最初に見られるプロフィールと直近数本で「どんな会社か」が伝わっていないと、そのあと何本投稿しても届きません。会社の格と、誰に来てほしいかを1枚に言語化するところから始めてください。
フォロワー数を目標にしてはいけないのはなぜですか。
求職者が企業アカウントをフォローせずに閲覧しているためです。フォロワー数は「見られた量」を表しておらず、増えなくても見られていることが普通に起こります。目標に置くなら、応募経路として名前が挙がった数、選考中の辞退率、採用単価といった採用側の数字にしてください。
採用のために砕けた投稿をすると、ブランドが下がりませんか。
下がります。特に高級ホテルや料飲、美容のように「格」が客単価を支えている業態では、採用向けに作った砕けた動画が本業の集客と単価に跳ね返ります。だから順番として、守るべき格を先に定義し、その中で若手に伝わる表現を探します。逆順にやると取り返しがつきません。
投稿が続きません。どうすれば運用が止まらなくなりますか。
担当者1人に企画から撮影・編集・投稿まで集めている構造が原因です。撮影しなくても出せる型(社員の一問一答、1日の流れ、数字の紹介)を先に決め、素材を撮る日と出す日を分けてください。ネタは毎回考えるものではなく、型に流し込むものにします。
Sources 出典
  1. 一般職業紹介状況(厚生労働省)/労働力調査(総務省統計局) https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/114-1.html
  2. 人手不足倒産の件数(東京商工リサーチの集計を報道各社が引用) https://www.tsr-net.co.jp/(一次資料で件数と定義を確認のうえ使用)
  3. 宿泊業における人材確保・育成の実態調査(観光庁) https://www.mlit.go.jp/kankocho/
  4. Z世代のSNS利用実態(サイバーエージェント次世代生活研究所) https://www.cyberagent.co.jp/news/
  5. 就職活動におけるInstagram活用の実態調査(トガル株式会社) https://prtimes.jp/
  6. 日本のBtoB購買に関する意識・実態調査(HubSpot Japan) https://www.hubspot.jp/
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