「いくらかかるの」に3行で答える稟議の作り方
決裁が下りない理由は、金額の大きさではありません。終わりが見えないことです。上限を先に出すと、話は10分で終わります。
- SNSにいくらかけるのが妥当か、自分でも根拠を持てていない
- 役員に「それで何人採れるの」と聞かれて答えられない
- 3か月後に成果を聞かれるのは分かっているが、何を報告するか決めていない
3つとも、自社の採用単価を1回出すだけで解けます。所要30分です。
採用単価の平均値は調査によって幅が大きく、そのまま引用すると稟議で反論される。まず自社の数字を、含める費目を明記した上で計算する。そこから「1人あたりいくらまでSNSに投じてよいか」を逆算すると、上限が決まる。決裁者が見るのは4行だけで、応募数は入らない。約束するのは3か月で先行指標、6か月で応募経路、12か月で採用単価という順番になる。
- 他社平均は使わない。自社の採用単価を、費目を明記して出す
- 投資の上限は「採用単価 × 年間採用人数 × 削減目標」で決まる
- 決裁者に出すのは4行。応募数は入れない
- 3か月で応募経路、6か月で辞退率、12か月で採用単価。約束の順番を守る
稟議が下りない理由を、担当者は「金額が大きいから」だと思っています。実際は違います。
終わりが見えないからです。
「効果が出るまで続けます」という提案は、決裁者から見ると金額が確定していない提案です。だから止まります。逆に上限が書いてあれば、判断は10分で終わります。
この記事で使う数字は1つだけです。自社の採用単価です。他社の平均値は使いません。理由を先に説明します。
まず、他社平均を引用するのをやめる
採用単価の平均値を調べると、こういう数字が並びます。
| 区分 | ある調査 | 別の調査 |
|---|---|---|
| 新卒1人あたり | 約 57万円 | 90〜120万円 |
| 中途1人あたり | 約 50万円 | 100〜130万円(専門職は200〜300万円) |
ずれの原因は精度ではなく含めた費目の違いです。
出典1・2/いずれも二次情報。棒は300万円を上限として描いています
同じ「採用単価」で倍以上ずれます。これは調査の質の問題ではありません。何を含めたかが違うだけです。
この幅のある数字をそのまま稟議に貼ると、そこが論点になります。「その57万円はどこの数字か」と聞かれて答えられないと、提案全体の信用が落ちます。他社平均は背景説明に置き、判断の根拠には自社計算を使ってください。
自社の採用単価を出す(30分)
含める費目を先に決めます。多くの会社が社内人件費を入れていないため、自社の採用単価を実態より安く見積もっています。
- 求人媒体の掲載費・成功報酬
- 人材紹介の手数料(理論年収の何%か)
- 採用管理システム・適性検査などのツール費
- 採用サイト・パンフレット・動画などの制作費(年で按分)
- 会社説明会・面接にかかった社内人件費(面接官の時間 × 時間単価)
- 内定者フォロー・入社前研修の費用
- 入社後3か月以内に辞めた人にかかった費用(これも採用費です)
計算式は単純です。
※「内定を出した人数」ではなく「入社した人数」で割ります。内定辞退が多い会社は、辞退分のコストが単価に乗ります。
最後の一行が重要です。内定辞退率が5割を超える企業は増えており、26卒では辞退者が5割以上にのぼった企業が41.5%という調査もあります(出典4)。辞退が増えると、採用単価は自動的に上がります。
投資額を逆算する
自社の採用単価が出たら、上限が決まります。
計算例(※サンプルデータ)
実在の企業の数字ではありません。自社の値に置き換えて使ってください。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 年間採用人数 | 12名 |
| 自社の採用単価(社内人件費を含む) | 55万円 |
| 年間の採用費 | 660万円 |
| 削減目標(1割) | 66万円 |
| SNSに投じてよい年間上限 | 66万円(月あたり5.5万円) |
| 開始時の投資(上限の6割) | 年約40万円(月3.3万円) |
この計算の目的は、金額を安く見せることではありません。上限を先に決めることで「効果が出るまで無限に投資し続ける提案」ではなくなるという点にあります。決裁が下りない理由の多くは、金額の大きさではなく終わりが見えないことです。
- 求人媒体・紹介手数料46.0%
- 面接・説明会の社内人件費24.0%
- ツール・制作費(年で按分)18.0%
- 内定者フォロー・早期離職分12.0%
多くの会社が社内人件費と早期離職分を入れていないため、自社の採用単価を実態より安く見積もっています。
※サンプルデータです。自社の実数に置き換えてください。
決裁者に出すのは4行
役員会に出す資料は、これで足ります。SNSの説明は要りません。
② 求職者の約6割はSNSで会社を調べている。当社は置いていない
③ 年間◯◯万円を上限に、まず6割で12か月試す
④ 3か月で△△、6か月で□□、12か月で採用単価を報告する
応募数を約束しないのが要点です。 応募数は媒体の掲載量や季節でも動くため、SNSの成果として説明しにくい数字です。約束すると、動かなかったときにSNSの責任になります。
報告する数字を期間で分ける
| 期間 | 報告する数字 | 報告しない数字 |
|---|---|---|
| 3か月 | 面談で「見ました」と言われた件数/プロフィールから求人ページへの遷移 | 応募数・採用単価 |
| 6か月 | 応募経路としての件数/選考中の辞退率 | 採用単価 |
| 12か月 | 採用単価/入社後3か月の定着率 | — |
3か月目に採用単価を聞かれても答えられません。それを最初に宣言しておくのが、この表の役割です。
「やらない場合のコスト」も出す
稟議では、投資額と並べて「動かない場合」を置きます。人手不足倒産は2025年に427件と統計開始以降で最多を記録し、月単位でも過去最多が出ています(出典3)。加えて、2026年度は正社員を採用する予定の企業が60.3%と3年ぶりに増えています(出典5)。つまり採り合いが強まる側に動いています。
- 自社の採用単価と、含めた費目
- 上限額と、その根拠(削減目標)
- 期間ごとに報告する数字
- やらない場合に増えるコスト
- 他社の採用単価の平均値(背景説明にとどめる)
- フォロワー数の目標
- 応募数の約束
- 「バズれば一気に」という表現
まとめ
- 他社平均は使わない。含める費目を書いた自社の採用単価を出す
- 入社人数で割る。内定辞退は採用単価を押し上げる
- 上限は「年間採用費 × 削減目標(まず1割)」。開始は上限の6割
- 決裁者に出すのは4行。応募数は約束しない
- 3か月・6か月・12か月で報告する数字を分けておく
何にいくらかけるかを決めたあとの設計は、柱記事にまとめています。
よくある質問
採用単価の平均はいくらですか。
SNS採用にいくらかけるのが妥当ですか。
効果が出るまでどのくらいかかりますか。
稟議で最も反論されるのはどこですか。
- 採用単価の平均(ONE/Wantedly) https://one-group.jp/humanresource/use/recruitment_cost.html(二次情報。定義の幅が大きいので自社計算の参考にとどめる)
- 中途採用コスト(みんなの採用部/inrevo) https://www.neo-career.co.jp/humanresource/knowhow/a-contents-middlecareer-tyuutosaiyo202102/(二次情報)
- 人手不足倒産の動向(東京商工リサーチ/日本経済新聞報道) https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC036N50T00C26A7000000/
- 内定辞退率の動向(マイナビキャリアリサーチLab) https://career-research.mynavi.jp/column/20260316_108862/
- 2026年度の雇用動向に関する企業の意識調査(帝国データバンク) https://www.tdb.co.jp/report/economic/20260323-employment2026/