「いくらかかるの」に3行で答える稟議の作り方

決裁が下りない理由は、金額の大きさではありません。終わりが見えないことです。上限を先に出すと、話は10分で終わります。

Key figure
57〜120万円 調査によって新卒1人あたりの採用単価は約57万円とも90〜120万円とも出る。差は精度ではなく「何を含めたか」。だから他社平均は稟議の根拠に使えない。
出典:出典1・2(二次情報)
こんな状態なら、この記事です
  • SNSにいくらかけるのが妥当か、自分でも根拠を持てていない
  • 役員に「それで何人採れるの」と聞かれて答えられない
  • 3か月後に成果を聞かれるのは分かっているが、何を報告するか決めていない

3つとも、自社の採用単価を1回出すだけで解けます。所要30分です。

01
自社の採用単価を、定義のブレなしに計算できる
02
SNSに使ってよい金額が上限つきで決まる
03
決裁者に出す4行と、約束してよい数字が分かる
結論だけ先に

採用単価の平均値は調査によって幅が大きく、そのまま引用すると稟議で反論される。まず自社の数字を、含める費目を明記した上で計算する。そこから「1人あたりいくらまでSNSに投じてよいか」を逆算すると、上限が決まる。決裁者が見るのは4行だけで、応募数は入らない。約束するのは3か月で先行指標、6か月で応募経路、12か月で採用単価という順番になる。

  • 他社平均は使わない。自社の採用単価を、費目を明記して出す
  • 投資の上限は「採用単価 × 年間採用人数 × 削減目標」で決まる
  • 決裁者に出すのは4行。応募数は入れない
  • 3か月で応募経路、6か月で辞退率、12か月で採用単価。約束の順番を守る

稟議が下りない理由を、担当者は「金額が大きいから」だと思っています。実際は違います。

終わりが見えないからです。

「効果が出るまで続けます」という提案は、決裁者から見ると金額が確定していない提案です。だから止まります。逆に上限が書いてあれば、判断は10分で終わります。

この記事で使う数字は1つだけです。自社の採用単価です。他社の平均値は使いません。理由を先に説明します。

まず、他社平均を引用するのをやめる

採用単価の平均値を調べると、こういう数字が並びます。

区分 ある調査 別の調査
新卒1人あたり 57万円 90〜120万円
中途1人あたり 50万円 100〜130万円(専門職は200〜300万円)
同じ「採用単価」でも調査によって倍以上ずれる
新卒(調査A)57万
新卒(調査B)120万
中途(調査A)50万
中途(調査B)130万
専門職(調査B)300万

ずれの原因は精度ではなく含めた費目の違いです。

出典1・2/いずれも二次情報。棒は300万円を上限として描いています

同じ「採用単価」で倍以上ずれます。これは調査の質の問題ではありません。何を含めたかが違うだけです。

注意

この幅のある数字をそのまま稟議に貼ると、そこが論点になります。「その57万円はどこの数字か」と聞かれて答えられないと、提案全体の信用が落ちます。他社平均は背景説明に置き、判断の根拠には自社計算を使ってください。

自社の採用単価を出す(30分)

含める費目を先に決めます。多くの会社が社内人件費を入れていないため、自社の採用単価を実態より安く見積もっています。

採用単価に含める費目(含めたものを稟議に明記する)
  • 求人媒体の掲載費・成功報酬
  • 人材紹介の手数料(理論年収の何%か)
  • 採用管理システム・適性検査などのツール費
  • 採用サイト・パンフレット・動画などの制作費(年で按分)
  • 会社説明会・面接にかかった社内人件費(面接官の時間 × 時間単価)
  • 内定者フォロー・入社前研修の費用
  • 入社後3か月以内に辞めた人にかかった費用(これも採用費です)

計算式は単純です。

採用単価(自社版)
採用単価 = 上記の年間合計 ÷ その年に入社した人数
※「内定を出した人数」ではなく「入社した人数」で割ります。内定辞退が多い会社は、辞退分のコストが単価に乗ります。

最後の一行が重要です。内定辞退率が5割を超える企業は増えており、26卒では辞退者が5割以上にのぼった企業が41.5%という調査もあります(出典4)。辞退が増えると、採用単価は自動的に上がります。

投資額を逆算する

自社の採用単価が出たら、上限が決まります。

年間の採用費を出す
採用単価 × 年間採用人数。ここが分母になります。
削減目標を決める(最初は1割で十分)
2割・3割を掲げると未達になります。1割なら、媒体の掲載枠を1つ落とすだけで到達することがあります。
年間採用費 × 削減目標 = SNSに投じてよい上限
この形にすると、決裁者が判断するのは「投資額の妥当性」ではなく「削減目標の妥当性」に変わります。判断しやすくなるので、話が進みます。
上限の6割で始める
残り4割を、効いた施策への追加投資に回します。最初から上限まで使うと、当たった打ち手を伸ばせません。

計算例(※サンプルデータ)

実在の企業の数字ではありません。自社の値に置き換えて使ってください。

項目
年間採用人数 12名
自社の採用単価(社内人件費を含む) 55万円
年間の採用費 660万円
削減目標(1割) 66万円
SNSに投じてよい年間上限 66万円(月あたり5.5万円)
開始時の投資(上限の6割) 年約40万円(月3.3万円)
要点

この計算の目的は、金額を安く見せることではありません。上限を先に決めることで「効果が出るまで無限に投資し続ける提案」ではなくなるという点にあります。決裁が下りない理由の多くは、金額の大きさではなく終わりが見えないことです。

採用単価の内訳(※サンプル)。社内人件費を入れると見え方が変わる
  • 求人媒体・紹介手数料46.0%
  • 面接・説明会の社内人件費24.0%
  • ツール・制作費(年で按分)18.0%
  • 内定者フォロー・早期離職分12.0%

多くの会社が社内人件費と早期離職分を入れていないため、自社の採用単価を実態より安く見積もっています。

※サンプルデータです。自社の実数に置き換えてください。

決裁者に出すのは4行

役員会に出す資料は、これで足ります。SNSの説明は要りません。

① 自社の採用単価は◯◯万円(含めた費目:△△)
② 求職者の約6割はSNSで会社を調べている。当社は置いていない
③ 年間◯◯万円を上限に、まず6割で12か月試す
④ 3か月で△△、6か月で□□、12か月で採用単価を報告する

応募数を約束しないのが要点です。 応募数は媒体の掲載量や季節でも動くため、SNSの成果として説明しにくい数字です。約束すると、動かなかったときにSNSの責任になります。

報告する数字を期間で分ける

期間 報告する数字 報告しない数字
3か月 面談で「見ました」と言われた件数/プロフィールから求人ページへの遷移 応募数・採用単価
6か月 応募経路としての件数/選考中の辞退率 採用単価
12か月 採用単価/入社後3か月の定着率

3か月目に採用単価を聞かれても答えられません。それを最初に宣言しておくのが、この表の役割です。

「やらない場合のコスト」も出す

稟議では、投資額と並べて「動かない場合」を置きます。人手不足倒産は2025年に427件と統計開始以降で最多を記録し、月単位でも過去最多が出ています(出典3)。加えて、2026年度は正社員を採用する予定の企業が60.3%と3年ぶりに増えています(出典5)。つまり採り合いが強まる側に動いています。

稟議に書く
  • 自社の採用単価と、含めた費目
  • 上限額と、その根拠(削減目標)
  • 期間ごとに報告する数字
  • やらない場合に増えるコスト
書かない
  • 他社の採用単価の平均値(背景説明にとどめる)
  • フォロワー数の目標
  • 応募数の約束
  • 「バズれば一気に」という表現

まとめ

  • 他社平均は使わない。含める費目を書いた自社の採用単価を出す
  • 入社人数で割る。内定辞退は採用単価を押し上げる
  • 上限は「年間採用費 × 削減目標(まず1割)」。開始は上限の6割
  • 決裁者に出すのは4行。応募数は約束しない
  • 3か月・6か月・12か月で報告する数字を分けておく

何にいくらかけるかを決めたあとの設計は、柱記事にまとめています。

よくある質問

採用単価の平均はいくらですか。
調査によって幅が大きく、新卒で約57万円という数字と90〜120万円という数字が並びます。中途も約50万円と100〜130万円が並び、専門職では200〜300万円という調査もあります。差は「何を採用コストに含めたか」の違いです。社内人件費・採用管理システム・内定者フォロー・紹介手数料を含めるかで倍以上変わるため、平均値の引用ではなく自社計算を使ってください。
SNS採用にいくらかけるのが妥当ですか。
妥当な絶対額はありません。上限は「年間の採用費 × 削減目標」で決まります。年間採用費が600万円で1割の削減を狙うなら年60万円が上限です。この形にすると、決裁者は投資額ではなく削減目標の妥当性を判断できるようになり、話が進みます。
効果が出るまでどのくらいかかりますか。
先行指標は1〜3か月で動きます(面談での言及、プロフィールから求人ページへの遷移)。応募経路として数えられるようになるのが3〜6か月、採用単価に表れるのが6〜12か月です。最初の報告で採用単価を約束すると、ほぼ確実に未達になります。約束する数字を期間で分けてください。
稟議で最も反論されるのはどこですか。
「フォロワーが増えるのか」ではなく「他社はやっているのか」です。求職者側の利用率(約6割)と、企業側の実施率(3割弱)の両方を出してください。競合が手をつけていないことは、反論ではなく理由になります。
Sources 出典
  1. 採用単価の平均(ONE/Wantedly) https://one-group.jp/humanresource/use/recruitment_cost.html(二次情報。定義の幅が大きいので自社計算の参考にとどめる)
  2. 中途採用コスト(みんなの採用部/inrevo) https://www.neo-career.co.jp/humanresource/knowhow/a-contents-middlecareer-tyuutosaiyo202102/(二次情報)
  3. 人手不足倒産の動向(東京商工リサーチ/日本経済新聞報道) https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC036N50T00C26A7000000/
  4. 内定辞退率の動向(マイナビキャリアリサーチLab) https://career-research.mynavi.jp/column/20260316_108862/
  5. 2026年度の雇用動向に関する企業の意識調査(帝国データバンク) https://www.tdb.co.jp/report/economic/20260323-employment2026/
記事一覧に戻る