「応募が来ない」と「採ったのに辞める」は、打つ手が逆です

この2つを同じ言葉で語ると、間違った施策に予算がつきます。困っているのが「来ない」なのか「辞める」なのかで、先にやることが入れ替わります。

Key figure
1〜3 採用ブランディングは3〜12か月で応募の質と承諾率が動く。エンプロイヤーブランディングは1〜3年。四半期で評価すると、必ず「効いていない」と判定される。
出典:出典1(二次情報)
こんな状態なら、この記事です
  • 採用を強化しているのに、在籍人数が増えない
  • 離職率が業界平均より高いことが分かっている
  • 社内向けの施策に予算が付かない

1つ目と2つ目が同時に起きている場合、順番が逆になっています。

01
2つの言葉の違いが、対象・期間・KPIで整理できる
02
自社がどちらから始めるべきかが判定できる
03
社内向けの施策を採用予算で説明できるようになる
結論だけ先に

採用ブランディングは社外の候補者を対象に採用の成果を狙う短中期の活動、エンプロイヤーブランディングは在籍者を含めた「働く場所としての評価」を対象にする中長期の活動だ。対象・期間・KPI・主管部署がすべて違う。判定は簡単で、離職率が業界平均より高い会社はエンプロイヤーブランディングが先、応募数が足りない会社は採用ブランディングが先になる。順番を逆にすると、採った人が辞め続ける。

  • 対象が違う。採用ブランディングは候補者、エンプロイヤーブランディングは在籍者を含む
  • 期間が違う。前者は3〜12か月、後者は1〜3年で効く
  • 離職率が高い会社はエンプロイヤーブランディングが先
  • 名前の定義に時間を使わない。決めるのは「どちらを先にやるか」だけ

この2つの言葉は、ほぼ同じ意味で使われています。実務上はそれで困らない場面も多いのですが、予算を取るときと、効果を測るときに困ります。

理由は、対象・期間・KPI・主管部署が全部違うからです。

そして実務でいちばん大きな違いは、失敗の形です。「応募が来ない」で困っている会社と、「採ったのに辞める」で困っている会社は、打つ手が逆になります。

表で整理する

採用ブランディング エンプロイヤーブランディング
主な対象 社外の候補者 在籍者+社外の候補者
目的 採用の成果(応募の質・承諾率) 働く場所としての評価(定着・推奨)
効くまでの期間 3〜12か月 1〜3年
主なKPI 応募の質・内定承諾率・採用単価 定着率・社員の推奨度・退職理由の構成
主管 人事(採用) 経営・人事(制度・評価・労務)
手段 採用サイト・SNS・動画・説明会 制度・評価・働き方・社内の伝達
失敗の形 応募が来ない/来ても合わない 採ったのに辞める
0 6か月 1年 2年 3年 採用ブランディング(対象:候補者) 3〜12か月で応募の質・承諾率が動く エンプロイヤーブランディング(対象:在籍者+候補者) 仕込み期間(数字は動かない) 1〜3年で定着率・推奨度が動く
図1:効き始めるまでの期間。四半期で評価すると、エンプロイヤーブランディングは必ず「効いていない」と判定されます。
要点

いちばん実務的な違いは最後の行です。「応募が来ない」で困っている会社と、「採ったのに辞める」で困っている会社は、打つ手が違います。同じ言葉で語ると、間違った施策に予算が付きます。

自社の離職率をどこと比べるか
全産業の年間離職率15%前後%
新規大卒の3年以内離職33.8%%
宿泊・飲食の新規大卒3年以内55.4%%

同じ定義の業界値と比べてください。業界平均より高ければ、社内側(エンプロイヤーブランディング)が先です。

出典3(厚生労働省)。全産業の年間離職率は一般的な水準。

どちらを先にやるか ―― 離職率で判定する

判定に長い分析は要りません。離職率だけで決まります。

自社の離職率と、業界平均を並べる
全産業平均は15%前後。新規大卒者の3年以内離職率は33〜35%前後で推移しています(出典3)。宿泊・飲食では5割を超えます。自社の数字を、同じ定義の業界値と比べてください。
業界平均より高い → エンプロイヤーブランディングが先
採用を強めても、抜けるほうが多い状態です。この状態で採用に投資すると、費用は増えて人数は増えません。先に、なぜ辞めるのかを潰します。
業界平均並みで応募が足りない → 採用ブランディングが先
残る土台はあるので、入口を広げるのが正しい。3〜12か月で数字が動きます。
両方悪い → エンプロイヤーブランディングを先に、採用は現状維持
同時にやると両方が中途半端になります。採用は媒体の掲載を維持するだけにして、社内側に集中してください。
注意

順番を逆にした場合に起きることは決まっています。採用が上手くなり、辞める人が増えます。 採用力が上がると母集団が増え、合わない人まで通ってしまうためです。離職率が高い会社ほど、採用の改善だけでは悪化します。

社内向けの施策を、採用予算で説明する

エンプロイヤーブランディングは、社内の話なので採用予算では通りにくい。採用の数字に翻訳してください。

社内の施策 採用の言葉に翻訳すると
評価基準の明文化 面接で「何で評価されるか」に答えられるようになる
入社後3か月の受け入れ設計 早期離職が減り、在籍月あたり採用費が改善する
現場の負荷の平準化 「忙しすぎる」という口コミが減る
社員紹介制度 採用単価がもっとも低い経路が使えるようになる
退職理由の記録と共有 発信の内容が実態に合い、ミスマッチが減る

最後の行が、この記事で最も実務的な提案です。 退職理由をきちんと記録している会社は、採用発信の精度が上がります。辞めた理由は、次に採るべき人の輪郭を教えてくれます。

辞めた理由を記録していない会社は、
同じ理由で辞める人を、また採ります。

用語の議論に時間を使わない

最後に、実務上の助言をひとつ。

社内でどちらの言葉を使うかは、どちらでも構いません。 統一されていれば十分です。定義の議論が長引いているときは、たいてい「どちらを先にやるか」が決まっていないことが原因です。

この記事から持ち帰る3行
  • 自社の離職率と業界平均を並べた(数字を出した)
  • 先にやるのは社内側か、採用側かを決めた
  • 社内側の施策を、採用の数字に翻訳して説明する準備をした

まとめ

  • 対象が違う。採用ブランディングは候補者、エンプロイヤーブランディングは在籍者を含む
  • 期間が違う。前者は3〜12か月、後者は1〜3年
  • 失敗の形が違う。「応募が来ない」と「採ったのに辞める」
  • 判定は離職率で行う。業界平均より高ければ社内側が先
  • 順番を逆にすると、採用が上手くなって辞める人が増える
  • 社内の施策は、採用の数字に翻訳して予算を取る
  • 用語の定義に時間を使わない。決めるのは順番だけ

4層のうちどこで止まっているかは、関連記事にまとめています。

よくある質問

エンプロイヤーブランディングとは何ですか。
「働く場所としての自社」の評価を、在籍している従業員と社外の候補者の両方に対して高めていく活動です。採用ブランディングが候補者に向けて採用成果を狙うのに対し、エンプロイヤーブランディングは在籍者の定着や、社員が知人に自社を薦めるかどうかまでを含みます。対象に人事制度・評価・働き方そのものが入る点が最大の違いです。
どちらを先にやるべきですか。
離職率が業界平均より高い場合はエンプロイヤーブランディングが先です。採用を強めても抜けるほうが多く、投資が回収できません。応募数が足りていて離職も落ち着いているなら、採用ブランディングから入ってかまいません。判定は離職率で行ってください。
違いを社内で説明する必要はありますか。
ほとんど必要ありません。用語の整理に時間を使うより、「どちらを先にやるか」を決めることのほうが重要です。社内では言葉を統一するだけで十分で、その言葉がどちらであっても構いません。定義の議論が長引いているときは、たいてい先に決めるべきことが決まっていません。
エンプロイヤーブランディングの効果はどう測りますか。
在籍者側の指標で測ります。3か月・1年・3年の定着率、社員が知人に自社を薦めるかどうか、退職理由に占める「人・制度」の割合、社員紹介による応募の件数です。応募数や採用単価では測れません。効果が出るまで1〜3年かかるため、測る間隔も四半期ではなく半年から年単位にしてください。
Sources 出典
  1. エンプロイヤーブランディングのKPIと効果の出方(HRMOS/renue/クイック採用サロン) https://hrmos.co/trend/talent-management/8775/
  2. 採用課題ランキング(Bellwether/キャリタス 緊急企業調査) https://www.career-tasu.co.jp/press_release/12383/
  3. 新規学卒就職者の離職状況(厚生労働省) https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177553_00007.html
記事一覧に戻る