採っても半分残らない ── ホテル・旅館の採用

全業種でいちばん人が足りていない業界で、採った新卒の半分以上が3年で辞めています。採用だけを強めても、この穴は埋まりません。

Key figure
55.4% 宿泊業の人手不足は73.4%で全業種1位。さらに宿泊業・飲食サービス業の新規大卒者は3年以内に55.4%が離職する。採用と定着は同じ問題として繋がっている。
出典:出典2・5(二次情報)
こんな状態なら、この記事です
  • 募集を出しても応募が来ない。来ても入社まで進まない
  • 採ってもすぐ辞めるので、採用費がいつまでも減らない
  • 高級業態なので、他社のような砕けた動画は出せない

3つ目は「やらない」ではなく「作り方を変える」で解けます。方法を後半に書きます。

01
宿泊業で人が採れない理由が、給与以外の3点で整理できる
02
格式を落とさずに採用発信をする方法が分かる
03
採用と定着をひとつの数字で見る方法が手に入る
結論だけ先に

宿泊業の人手不足割合は73.4%で全業種1位。未充足求人がある事業所は67%に達する。さらに宿泊業・飲食サービス業の新規大卒者の3年以内離職率は55.4%と、採用しても半分が残らない。だから宿泊業の採用は「採る」だけでは終わらず、入る前に実態を伝える設計が必須になる。加えて高級業態には固有の制約がある。若者に寄せた砕けた発信は、客単価を支えている格を崩し、本業に跳ね返る。静けさと手仕事で成立させる作り方を示す。

  • 人手不足73.4%で全業種1位。未充足求人がある事業所は67%
  • 宿泊・飲食の新規大卒3年以内離職率は55.4%。採るだけでは埋まらない
  • 採れない理由は給与だけではない。シフト・立地・キャリアの見えなさ
  • 高級業態は他社の当たった型が使えない。静けさと手仕事で作る

宿泊業の採用は、他の業種と難易度が違います。まず2つの数字を並べます。

全業種でいちばん足りていない業界で、採った人の半分が3年で辞める

73.4%

宿泊業の人手不足割合(全業種1位)

出典2(二次情報)

55.4%

宿泊・飲食の新規大卒3年以内離職率

出典5(二次情報)

67%

未充足求人がある事業所の割合

出典2(二次情報)

1番目と2番目を並べて読んでください。 全業種でいちばん人が足りていない業界で、採った新卒の半分以上が3年で辞めています。

つまりこの業界の課題は、採用ではありません。採用と定着が同じ問題として繋がっています。 ここを分けて考えると、いくら採っても埋まりません。

採れない理由は、給与だけではない

給与水準の話に集約されがちですが、現場で聞くと、判断を止めているのは次の3つです。

シフトが読めない
「シフト制」という表記だけでは、連休が取れるのか、友人と予定を合わせられるのかが分かりません。求職者が不安なのは労働時間の長さより予定が立たないことです。実際のシフト表を1か月分見せるだけで、この不安は消えます。
立地が生活の問題になる
リゾート立地・温泉地では、就職と引っ越しが同時に発生します。住まい・通勤・買い物・休日の過ごし方が判断材料に入ります。求人票には書く欄がありませんが、これが決め手になることは珍しくありません。寮と周辺環境を見せてください。
キャリアの先が見えない
10年後にどうなるのかが想像できない。実際には支配人・料飲・営業・本部・複数拠点への異動など道筋はあるのに、伝わっていません。入社5年目・10年目の人が今何をしているかを見せると、ここが埋まります。

この3つは、いずれも求人票の形式では答えられません。 だからSNSと動画に置き換える価値が大きい業界です。

高級業態には固有の制約がある

ここが宿泊業の採用でもっとも扱いが難しい部分です。

高級ホテル・旅館・オーベルジュでは、格が客単価を支えています。 そこで採用のために「若者に寄せた砕けた動画」を出すと、既存顧客の目に入り、価格の納得感に影響します。

注意

採用アカウントは、採用候補者だけが見るものではありません。いちばん多く見ているのは、既存顧客と、これから予約を検討している人です。 応募が増えても予約単価が落ちるなら、その施策は失敗です。効果の判定に本業の指標を必ず含めてください。

崩さずに作る方法

「やらない」以外の選択肢があります。他社の当たった型を捨てて、素材の質で成立させます。

使えるもの
  • 手仕事のクローズアップ(包丁・器・寝具・生花)
  • 環境音のみ(音楽を足さない)
  • 静止に近いカメラ。カットを割らない
  • 準備の時間(開店前・チェックイン前の静けさ)
  • 技術の言葉(職人が使う語をそのまま出す)
使えないもの
  • 流行の音源とダンス
  • 社内の悪ノリ・自虐
  • 過剰なテロップと効果音
  • 客室・客席での営業時間中の撮影
  • 「アットホームな職場」という表現
格を落とさずに採るための条件は、ひとつだけです。
採用のための投稿を、本業の宣伝と同じ基準で作ること。

何を見せるか(宿泊業の12本)

宿泊業で効く題材(上から順に撮る)
  • 1か月分の実際のシフト表(個人名は消す)
  • 寮と、そこから施設までの道
  • 休日の過ごし方(周辺の環境)
  • 開館前の準備。無音に近い時間
  • 客室整備の手順(1室を通しで)
  • 調理場の1日(仕込みから片付けまで)
  • フロントで実際に聞かれる質問と答え方
  • 入社1年目が任されている仕事の範囲
  • 入社5年目・10年目の人が今やっていること
  • 繁忙期の実際(都合の悪いことを含む)
  • 語学がどの程度必要か(実際の会話の場面)
  • 辞めた人の指摘を受けて変えたこと

1番目が最も効きます。実際のシフト表を出している宿泊施設は、ほとんどありません。 出すだけで差がつきます。

採用と定着をひとつの数字で見る

離職率が高い業界では、採用単価だけを見ると判断を誤ります。次の指標に置き換えてください。

在籍月あたり採用費
在籍月あたり採用費 = 1人あたり採用費 ÷ その人が在籍した月数
採用単価が同じ50万円でも、在籍6か月なら月8.3万円、在籍36か月なら月1.4万円。実質のコストは6倍違います。 応募数だけを追う施策は、この数字を悪化させることがあります。
施策 応募数 在籍月あたり採用費
条件を良く見せる 増える 悪化する(早期離職が増える)
実態を正確に伝える やや減る 改善する
応募のハードルを下げる(応募フォームの簡略化) 増える 変わらない
現場見学を選考に入れる 減る 改善する

「応募数が減る施策が正解になる」のがこの業界の特徴です。だから応募数を目標にすると、正しい施策が選べません。

同じ採用単価50万円でも、実質のコストは6倍違う
在籍6か月で辞めた場合月8.3万円
在籍36か月続いた場合月1.4万円

だから応募数を増やす施策より、入る前に実態を伝える施策のほうが数字が良くなります。

※採用単価50万円を在籍月数で割ったもの(サンプル)。

まとめ

  • 宿泊業は人手不足73.4%で全業種1位。かつ新卒の3年以内離職が5割超
  • 採用と定着は同じ問題。良く見せる発信は損失に直結する
  • 採れない理由はシフトの読めなさ・立地(住まい)・キャリアの見えなさ
  • 高級業態は他社の型が使えない。手仕事・環境音・静けさで作る
  • 効果の判定に本業の指標(予約単価)を必ず入れる
  • 見る数字は「在籍月あたり採用費」。応募数を目標にしない

崩さない設計の全体像は、柱記事にまとめています。

よくある質問

ホテル・旅館はなぜ人が採れないのですか。
給与水準だけの問題ではありません。①シフトが読めない(連休が取れるかが分からない)、②立地が生活圏から遠く、住まいの問題が同時に発生する、③キャリアの先が見えない(10年後の姿が想像できない)の3つが重なります。求人票はこの3つに答えられない形式なので、SNSと動画で先に答えるほうが効きます。
高級ホテルでSNS採用をすると、ブランドが崩れませんか。
他社が当たっている型をそのまま使えば崩れます。流行の音源、社内の悪ノリ、砕けた言葉遣いは、格が客単価を支えている業態では本業に跳ね返ります。ただし作り方は別にあります。手仕事のクローズアップ、無音に近い環境音、静止に近いカメラワークで、働く様子は十分に伝わります。崩れるのは媒体のせいではなく企画のせいです。
離職率が高い業界で、採用にお金をかける意味はありますか。
あります。ただし評価する数字を変えてください。1人採るのにかかった費用ではなく、「1人が在籍した月数あたりの費用」で見ます。採用単価が同じでも、在籍が6か月と36か月では実質のコストが6倍違います。入る前に実態を伝える発信は、この数字を最も大きく改善します。
外国籍スタッフの採用にもSNSは使えますか。
使えますが、設計が変わります。日本語の求人票が読めない層には、働く様子が映像で分かることの価値が大きくなります。加えて、住まい・寮・生活のサポート体制が判断材料の中心になるため、そこを見せる必要があります。ただし在留資格に関わる条件の表記は誤りが許されないため、必ず自社の管理部門と確認してください。
Sources 出典
  1. 人手不足に対する企業の動向調査(帝国データバンク) https://www.tdb.co.jp/report/economic/20260220-laborshortage202601/
  2. 宿泊業の人手不足・未充足求人・離職率(ビジネスブレーン/はたLuck) https://miyako.com/aio/articles/hotel-staffing-shortage/(二次情報。離職率は定義に注意。一次資料で確認のうえ使用)
  3. 宿泊業の人材確保・育成の実態調査(観光庁) https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001891438.pdf
  4. 新規学卒就職者の離職状況(厚生労働省) https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177553_00007.html
  5. 飲食業・宿泊業の離職率(マネーフォワード クラウド) https://biz.moneyforward.com/restaurant/basic/2944/(二次情報。宿泊・飲食サービス業の新規大卒3年以内離職率55.4%)
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