オレンジの枠で囲まれた予算のブロックと提案書で、投資上限の明確な稟議を表したビジュアル

「いくらかかるの」に3行で答える稟議の作り方

金額の大きさより、終わりが見えること。自社の採用単価から、投資の上限を出す。

更新 2026.10.19読了目安 約10分

この記事の結論30秒で分かります

  • 他社平均は背景説明にとどめ、含める費目を明記した自社の採用単価を判断の根拠にします。
  • 年間採用費を、その年に入社した人数で割ります。内定人数では割りません。
  • 投資上限は「年間採用費 × 削減目標」。まず1割を目標に、上限の6割で始めます。
  • 決裁者には現状・必要性・投資上限・報告計画の4項目を示します。
  • 3・6・12か月で報告する数字を分け、応募数を約束しません。

稟議が下りない理由を、担当者は「金額が大きいから」だと思っています。実際には、終わりが見えないことも大きな障壁です。

「効果が出るまで続けます」という提案は、決裁者から見ると金額が確定していない提案です。逆に上限が書いてあれば、判断するための前提がそろいます。

この記事で判断の根拠にするのは、自社の採用単価です。他社の平均値は使いません。理由を先に説明します。

見えている費用と隠れた費用のブロックを集め、自社の採用費の総額を把握するイメージ
01

他社平均より、
自社の実数。

同じ「採用単価」でも、含める費目は違います。
まず、何にかかった費用なのかをそろえます。

まず、他社平均を引用するのをやめる

採用単価の平均値を調べると、こういう数字が並びます。

採用単価の参考値の比較(出典1・2/二次情報)
区分ある調査別の調査
新卒1人あたり約57万円90〜120万円
中途1人あたり約50万円100〜130万円
専門職は200〜300万円
同じ「採用単価」でも、示される額に幅がある単位:万円 / 目盛りの上限:300万円
新卒・調査A57
新卒・調査B120
中途・調査A50
中途・調査B130
専門職・調査B300

出典1・2の参考値。対象や含める費目の定義が異なるため、単純な優劣の比較には使えません。

同じ「採用単価」で倍以上ずれます。調査の数字を見るときは、まず何を含めたかを確認してください。

自社の採用単価を出す(30分)

含める費目を先に決めます。社内人件費を入れていないと、自社の採用単価を実態より安く見積もることになります。

  • 求人媒体の掲載費・成功報酬
  • 人材紹介の手数料(理論年収の何%か)
  • 採用管理システム・適性検査などのツール費
  • 採用サイト・パンフレット・動画などの制作費(年で按分)
  • 会社説明会・面接にかかった社内人件費(面接官の時間 × 時間単価)
  • 内定者フォロー・入社前研修の費用
  • 入社後3か月以内に辞めた人にかかった費用

計算式は単純です。

採用単価(自社版)
採用単価 = 上記の年間合計 ÷ その年に入社した人数

「内定を出した人数」ではなく「入社した人数」で割ります。内定辞退が多い会社は、辞退分のコストが単価に乗ります。早期離職者にかかった費用も含めますが、すでに集計した媒体費や人件費を二重に加算しないようにしてください。

マイナビの2026年卒企業新卒内定状況調査では、内定辞退率が5割以上だった企業は41.5%でした(出典4)。採用活動の費用が同じでも、入社人数が減れば採用単価は上がります。

枠で囲まれた予算をオレンジの開始分とグレーの予備分に分けた、上限のある投資のビジュアル
02

投資額は、
上限から逆算する。

まず1割の削減を目標に置く。
開始は上限の6割。残りは、効いた施策に回します。

自社の採用単価が出たら、上限を決める

  1. 01年間の採用費を出す採用単価 × 年間採用人数。ここが計算の基準になります。
  2. 02削減目標を決める(最初は1割で十分)最初から2割・3割を掲げず、削減できる費目を確認します。媒体の掲載枠を1つ落とせるか、など具体的に考えます。
  3. 03年間採用費 × 削減目標 = SNSに投じてよい上限決裁者が判断する論点を、削減目標の妥当性にそろえます。
  4. 04上限の6割で始める残り4割は、効いた施策への追加投資に回します。最初から使い切らないようにします。

計算例(サンプルデータ)

実在の企業の数字ではありません。自社の値に置き換えて使ってください。

採用単価55万円・年間12名を採用する場合の試算
項目値
年間採用人数12名
自社の採用単価(社内人件費を含む)55万円
年間の採用費660万円
削減目標(1割)66万円
SNSに投じてよい年間上限66万円(月あたり5.5万円)
開始時の投資(上限の6割)年約40万円(月3.3万円)

6割の正確な金額は年39.6万円です。年約40万円は、その丸めた表示です。

採用単価の内訳構成比の例(合計100%)/ サンプルデータ
  • 46%求人媒体・紹介手数料
  • 24%面接・説明会の社内人件費
  • 18%ツール・制作費(年で按分)
  • 12%内定者フォロー・早期離職分

実在企業の内訳ではありません。自社の実数に置き換えてください。

社内人件費や早期離職にかかった費用まで入れると、採用費の見え方が変わります。

オレンジの道で三つの測定地点をつないだ、段階ごとに成果を報告するロードマップ
03

決裁者に出すのは、
4行。

現状・必要性・上限・報告計画。
最初から、応募数を約束しないことが要点です。

SNSの説明より、判断に必要な4項目をそろえる

役員会に出す資料は、まず次の4行にまとめます。自社の状況に合わせて書き換えてください。

① 自社の採用単価は◯◯万円(含めた費目:△△)

② 就職活動でSNSを使って情報収集する学生は約6割。当社は情報を置いていない

③ 年間◯◯万円を上限に、まず6割で12か月試す

④ 3か月で△△、6か月で□□、12か月で採用単価を報告する

②の約6割は、i-plugの2024年公表調査で、OfferBox登録の2025年卒予定学生1,031名のうち59.6%が、就職活動でSNSを使って情報収集すると回答した数字です。新卒採用企業259社のSNS活用は28.6%でした(出典6)。求職者全体の数値ではなく、新卒を対象とした調査として使ってください。「当社は置いていない」の部分も、自社の現状と合うか確認します。

応募数を約束しないのが要点です。応募数は媒体の掲載量や季節でも動くため、SNSの成果として説明しにくい数字です。約束すると、動かなかったときにSNSの責任になります。

報告する数字を期間で分ける

稟議の段階で合意しておく報告計画
期間報告する数字報告しない数字
3か月面談で「見ました」と言われた件数
プロフィールから求人ページへの遷移
応募数・採用単価
6か月応募経路としての件数
選考中の辞退率
採用単価
12か月採用単価
入社後3か月の定着率
—

3か月目に採用単価を聞かれても、十分な評価材料がそろわないことがあります。それを最初に宣言しておくのが、この表の役割です。期間は運用計画の目安として置き、施策や採用人数に合わせて見直します。

「やらない場合のコスト」も出す

稟議では、投資額と並べて「動かない場合」を置きます。帝国データバンクによると、2025年の人手不足倒産は427件で、3年連続で過去最多を更新しました(出典3。法的整理、負債1,000万円以上)。

2026年度に正社員の採用予定がある企業は60.3%と、3年ぶりに上昇しています(出典5。2026年2月調査、有効回答10,416社)。採用競争が続く背景として捉え、自社では欠員が続くことで何が増えるのかを具体的に示します。

稟議で伝えること・約束しないこと
稟議に書く書かない
自社の採用単価と、含めた費目他社の採用単価の平均値(背景説明にとどめる)
上限額と、その根拠(削減目標)フォロワー数の目標
期間ごとに報告する数字応募数の約束
やらない場合に増えるコスト「バズれば一気に」という表現

上限と報告計画が、稟議を判断できる形にする。

  • 他社平均は使わない。含める費目を書いた自社の採用単価を出す
  • 入社人数で割る。内定辞退は採用単価を押し上げる
  • 上限は「年間採用費 × 削減目標(まず1割)」。開始は上限の6割
  • 決裁者に出すのは4行。応募数は約束しない
  • 3か月・6か月・12か月で報告する数字を分けておく

何にいくらかけるかを決めたあとの設計は、SNS採用による採用費削減の記事にまとめています。

出典

  1. 株式会社ONE「採用コスト1人当たりの平均相場」/Wantedly「採用単価の平均相場」(二次情報。定義の幅が大きいため、自社計算の参考にとどめる)
  2. ネオキャリア「中途採用コストの平均単価や相場」(二次情報)
  3. 帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査(2025年)」(2026年1月8日公表)
  4. マイナビキャリアリサーチLab「内定(内々定)辞退率の動向」(2026年3月16日公表)
  5. 帝国データバンク「2026年度の雇用動向に関する企業の意識調査」(2026年3月23日公表)
  6. i-plug「就職活動におけるSNSの活用状況に関する調査」(2024年2月20日公表。学生 n=1,031、企業 n=259)

よくある質問

採用単価の平均はいくらですか。

調査によって幅が大きく、新卒で約57万円という数字と90〜120万円という数字が並びます。中途も約50万円と100〜130万円が並び、専門職では200〜300万円という調査もあります。差は「何を採用コストに含めたか」の違いです。社内人件費・採用管理システム・内定者フォロー・紹介手数料を含めるかで倍以上変わるため、平均値の引用ではなく自社計算を使ってください。

SNS採用にいくらかけるのが妥当ですか。

妥当な絶対額はありません。上限は「年間の採用費 × 削減目標」で決まります。年間採用費が600万円で1割の削減を狙うなら年60万円が上限です。この形にすると、決裁者は投資額ではなく削減目標の妥当性を判断できるようになり、話が進みます。

効果が出るまでどのくらいかかりますか。

先行指標は1〜3か月で動きます(面談での言及、プロフィールから求人ページへの遷移)。応募経路として数えられるようになるのが3〜6か月、採用単価に表れるのが6〜12か月です。最初の報告で採用単価を約束すると、ほぼ確実に未達になります。約束する数字を期間で分けてください。

稟議で最も反論されるのはどこですか。

「フォロワーが増えるのか」ではなく「他社はやっているのか」です。求職者側の利用率(約6割)と、企業側の実施率(3割弱)の両方を出してください。競合が手をつけていないことは、反論ではなく理由になります。